鉄道話

 

昭和史再訪セレクション

Vol.08 YS-11が初飛行 戦略なき開発、10年後に中止 昭和37年8月30日

2010年5月22日朝日新聞夕刊紙面より
かつてYS-11の最終組み立てをしていた三菱重工小牧南工場第6格納庫。今は、ボーイング777の胴体後部の生産が続く=愛知県豊山町、畑川写す

戦後唯一の国産旅客機YS-11。その試作1号機が名古屋空港付近で初飛行を終えた直後、日本航空機製造(日航製)の長谷川栄三・副操縦士は「マリリン・モンローみたいだ」と語った。容姿をほめたのではない。尻を振りながら飛ぶ様をモンロー・ウオークにたとえたのだ。祝賀ムードは一気に冷えた。

舵(かじ)の利きが悪い。水平安定性に問題がある。テスト飛行ではきりもみから墜落状態になったことも。設計の大幅変更を経て旅客機として販売できるお墨付きを得たのは、予定より1年遅れた1964年8月だった。1年の遅れは大きく、緒戦の商機を逸した。

設計の中心は戦前の軍用機の担当者。性能第一の軍用機と、安全の上に快適性や経済性を求める旅客機とは設計思想が正反対だ。

富士重工業から出向して尾翼などの設計にあたった鳥養鶴雄さんは、乗降時に伸ばすエアステア(はしご)を取り付けるよう求められた。「せっかくの軽量化が無駄になる。タラップを横付けするから不要だろう」と思ったが、地方空港ではタラップも要員もコスト高になり用意できないと言われ、初めて経済性を意識した。「飛行機は設計したが、商品を開発している意識はなかった」

日航製は、設計や部材の調達、営業を担い、生産は三菱、川崎、富士などの機体メーカーが分担。メーカー側は防衛庁納入と同じようにコストに利益を上乗せして日航製に支払いを求めた。売価から利益を引いたコストに抑える、商売なら当たり前の引き算が通用せず、量産が始まっても高コストに悩まされた。

 

 

2010年5月22日朝日新聞夕刊紙面より
1962年8月30日朝日新聞夕刊(大阪本社版)

政策の後押しも中途半端だった。政府の直接的な支援は資本金だけ。開発費に資本金を使い切り、量産段階では金利の高い民間銀行から調達して金利負担が膨らんだ。海外の航空会社は延べ払いが多く、金利負担を押し上げた。大幅な円高に見舞われ、一気に為替差損が出た。こうした要因が重なって累積赤字は 360億円まで膨らみ、ついに事業中止に追い込まれた。

目標にした3万飛行時間の6~7倍の安全度を見込んで設計したYS-11は頑丈だ。就航から5年ほどたつと「雨漏りがする」「エアコンが弱く冬寒く夏暑い」など初期の様々な不具合も改良され、輸出されたYSを70年代後半から国内の航空会社が買い戻し始めた。「安心して使えるもうかる機体」になったのだ。高い定時出発率を誇り、飛行時間7万1千時間を超える世界記録機も出た。「当初は安全を求めすぎてコスト無視だと批判されたが、無事これ名馬で最後は名機と惜しまれた」と関係者はいう。

ボーイング777の共同開発などにも携わった鳥養さんは70年代、YSの後継計画を機体メーカー首脳に何度も働きかけた。だが、「リスクが大きすぎる」「大鍋の底(ボーイングの下請け)で確実に利益をもらうことを考えるべきだ」などと反対された。

ジェットエンジンの開発に20年間携わり、航空機関係の著作も多い作家の前間孝則さんは「航空機産業育成の長期的戦略がなく、YS中止はもったいなかった」と悔やむ。「日航製解散で、YSの開発、生産、販売、運用を通じて培った人材を散逸させ、世界への足がかりを失った」

今、100席以下の旅客機はカナダとブラジルが寡占。国産旅客機は、三菱重工業が2014年引き渡しを目指すMRJまで待たねばならない。

(畑川剛毅)

 

あのとき

国産182機、自衛隊で現役も

「日本の空を日本の翼で」という通産省の旗振りで出来た輸送機設計研究協会が「60人乗り、双発ターボプロップ、離陸滑走距離1200メートル未満」などの基本設計をした。YSは輸送機と設計の頭文字。

1959(昭和34)年、政府とメーカーが共同出資して日本航空機製造株式会社を設立。62年8月30日、試作機1号機が初飛行に成功した。

65年から国内線の定期路線に就航。4万6千キロにおよぶデモフライトなどで海外にも販路を広げたが赤字が膨らみ72年度を最後に生産は中止。82年には日航製も解散した。

総生産機は182機。うち官需が33機。輸出は12カ国75機。国内では06年に運航を終えたが、今も一部が自衛隊機などとして現役で飛んでいる。

 

証言
日航製で営業に活躍した島津製作所相談役・矢嶋英敏さん

◆「アフリカに5機」の厳命

入社7年、31歳のころ、営業に回された。「一番きついアフリカで5機売れるまで帰ってくるな」と上司に厳命された。まずカメルーンに飛んだが話がかみ合わない。YSは「100万ドルの飛行機」と言われていたのに、国家予算が100万ドルだという。売れるはずがない。日本では市場調査さえしてなかった。

給料2万円の時代に1万ドル(360万円)をトラベラーズチェックで持参した。パリの税関が「なぜこんな高額のチェックを持っている」と怪しがる。「日本人が飛行機を売るなんて聞いたことがない」と尋問された。

西アフリカ13カ国が共同出資したエア・アフリックが、旧型の飛行機が多く有望だと狙いをつけた。アフリカは宗主国、白人に対する屈折した思いがある。そこへ黄色人種が海を越え、しかも飛行機の売り込みにやってきた。大歓迎を受け、とんとん拍子で話がまとまり3カ月で3機の契約にこぎつけた。半信半疑の本社を尻目に、その後、ガボンの大統領専用機、コンゴの流通企業にも売った。

旅客機は1機だけ開発して儲(もう)かるほど簡単な商売じゃない。初挑戦で180機も売れ外貨も稼いだのはすごいことだ。それだけに中止は本当に残念だった。日航製の解散時、部下があっという間に他社に引き抜かれた。能力が高かったからだ。それが私の誇りだ。

 

(更新日:2010年08月26日)

http://doraku.asahi.com/earth/showashi/100826.html

http://doraku.asahi.com/earth/showashi/100826_02.html

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なんか、日本って、勿体ないよねぇ。

やればもっと出来る子のはずなのに。

( ´・д・)

 

 

 

~ 以上 ~


YS-11.

 

쇼와사

Vol.08 YS��</div


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